核酸医薬品は、たんぱく質を標的とする従来の低分子医薬品や抗体医薬品とは異なり、RNAのレベルで生体を制御できる点が大きな特徴であり、分子全体は塩基・5炭糖・リン酸からなるヌクレオチドを構成単位(図1)とする生体高分子(ポリヌクレオチド)である。
図1 ヌクレオチドの基本構造
対象疾患としては、従来の薬物療法では、治療法がないか、乏しい難治性疾患および遺伝性疾患に対する核酸医薬品が期待され開発が行われている(Appendix1)。この核酸医薬品とは、図2に示すように、一般的なホスホアミダイト法による固相合成サイクル化学合成により自動合成修飾されたもので10~数10塩基程度連結したオリゴ核酸で構成され、遺伝子発現を介さずに直接生体に直接作用するものである。
図2 ホスホアミダイト法による固相合成サイクル
この核酸医薬品の化学修飾核酸の開発が進むにつれて、天然の核酸と異なり「生体内ヌクレアーゼ分解耐性」、「体内安定性の向上」、「細胞内への取組効率の向上」、「標的配列(細胞内mRNA/pre-mRNA)等」、「毒性の低減」「標的部位への結合力向上」といった薬剤的機能が改善され、現在開発の促進および製品化に至っている(表1)。
現在まで、アンチセンス、siRNA、mRNA、アプタマー、CpGオリゴ、デコイ核酸の6種類のモダリティナーが存在しており、各核酸医薬品の構造・塩基・標的・作用部位が明らかになっている。
表1 核酸医薬品の分類
アンチセンス | siRNA | miRNA | デコイ核酸 | アプタマー | CpGオリゴ | |
---|---|---|---|---|---|---|
構造 | 1本鎖 | 2本鎖 | 2本鎖 | 2本鎖 | 1本鎖 | 1本鎖 |
DNA/RNA | RNA | RNA | DNA | DNA/RNA | DNA | |
塩基長 | 14~24 | 20~25 | 20~25 | ~20 | 26~45 | ~20 |
標的 | mRNA | タンパク質 | タンパク質 | |||
Pre-mRNA | mRNA | mRNA | タンパク質 | 細胞外蛋白 | (TLR9) | |
miRNA | (転写因子) | 細胞表層蛋白 | ||||
作用部位 | 細胞内 | 細胞内 | 細胞内 | 細胞内 | 細胞外 | 細胞外 |
(エンドソーム内) | ||||||
作用機序 | RNA分解 | |||||
スプライシング制御 | RNA分解 | miRNAの補充 | 転写阻害 | タンパク質の機能阻害 | 自然免疫の活性化 | |
miRNA阻害 |
引用)Drug Delivery System 2019 34-2, pp. 86-98 (核酸医薬開発の現状と今後の展望),
井上貴雄、佐々木済美、吉田徳幸 国立医薬品食品精製研究所
原材料→ 固相合成→ 切り出し/脱保護→ 限外濾過(濃縮/脱塩)→ クロマトグラフィ-精製→ 濃縮/脱塩→必要により2本鎖形成→ 凍結乾燥
作用機序の違い、又は機能性向上を指向した化学修飾体導入により核酸医薬品の有効成分であるオリゴヌレオチド構造は多岐に渡るが、そのほとんどが同一の合成法であるホスホロアミド法により合成される(図2)。
生体は、外界から侵入したウイルス等を認識する自然免疫を活性化する機構があり、核酸医薬品を設計する上でウイルス等を認識する生体のTLR(Toll-like receptor)について注意する必要がある。
塩基部への修飾された5メチルシトシンは、核酸医薬品を認識するTLR9の基質になることを防ぎ自然免疫反応を起こさないことが知られている。
リン酸部位を修飾した人口核酸ホスホロチオアートは、リン酸ジエステル結合に関わらずフリーの酸素原子を硫黄原子に置換したものでヌクレアーゼによる分解耐性を高くし血中滞留性が天然のオリゴ核酸に比し向上する。
糖部の2’炭素をターゲットにメチル化(2’-OME)と2’-Fの修飾は、ヌクレアーゼによる分解耐性の付与だけでなく相補鎖との結合親和性を向上させる(2’炭素と4’炭素の架橋核酸の高い標的部位との結合)。
不純物発生の工程 | 不純物 |
---|---|
出発物質 | オリゴヌクレオチド由来不純物 |
合成サイクル中に生じる不純物 | ヌクレオチド欠損体不純物、ヌクレオチド長鎖不純物 |
塩基部の不純物 (合成担体から切り出し工程で) |
酸化ストレス、キャッピング→アンモニア処理 |
リン酸構造に関連する不純物 | PS⇒PO(変換体)、PS結合に由来する立体異性体 脱トリチル化反応、酸化・硫化反応 |
保管中に生じる不純物 | オリゴヌクレオチド由来不純物 |
その他 | 合成試薬、残存溶媒、リンカー由来の不純物 脱保護工程で生じる保護気由来の不純物 |
限外濾過(濃縮、アンモニア・脱保護された保護基の低分子除去)
カラムクロマトグラフィーによる分離精製(逆相イオンペアーモードまたは陰イオン交換モード)
確認試験(MS、Tm値、核酸配列、合成機のリアルタイムモニタリング、分子量等) |
|
---|---|
定量法 | 必要に応じ複数の分析方法を組み合わせて有効成分を定量(例えば、UV、サイズ排除クロマトグラフィー、キャピラリー電気泳動、陰イオン交換クロマトグラフィー等) |
分析法バリデーション | 常法に従って行う |
pH | |
元素不純物 | ICP-MS、ICP-OES、原子吸光光度法 |
残留溶媒 | GC |
生物活性 | 必要に応じオリゴヌクレオチド類縁物質の分析(特性解析の実施) |
立体異性体 | 精製工程における選択区分によりジアステレオマー分布の評価 |
エンドトキシン | 局方記載法 |
微生物限度試験 | 局方記載法 |
安全性 | オリゴヌクレオチド類縁物質、残留溶媒、元素不純物 |
*)MS:Mass spectrometry、ICP: Inductively coupled plasma、OES: Optical emission spectroscopy
最新の分析方法を駆使して品質を確保する必要があるが、原薬の多様性(分子量等)のため、正確な分析法の確立は困難な場合がある。
商品名 | 一般名 | 分類 | 製剤化 | 承認国/年 | 適応症 | 投与方法 |
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Vitravene | ホミビルセン | アンチセンス | Naked | 米1998 欧1999 |
CMV性網膜症 (エイズ患者) |
硝子体内 |
Macugen | ペガプタニブ | アプタマー | PEG-conjugate | 米2004 欧2006 日2008 |
滲出型加齢黄斑変性症 | 硝子体内 |
Kynamro | ミポメルセン | アンチセンス | Naked | 米2013 | ホモ接合型家族性コレステロール血症 | 皮下 |
Exondys 51 | エテプリルセン | アンチセンス | Naked | 米2016 | ディシェンヌ型筋ジストロフィー | 静脈内 |
Spinraza | ヌシネルセン | アンチセンス | Naked | 米2016 欧2017 日2017 |
脊髄性筋萎縮症 | 髄腔内 |
HEPLISAV-B | CpG1018 | CpGオリゴ | Naked | 米2017 欧2019 |
B型肝炎 (予防) |
筋肉内 |
Tegsedi | イノテルセン | アンチセンス | Naked | 米2018 欧2018 |
遺伝性ATTRアミロイドーシス | 皮下 |
Onpattro | パチシラン | iRNA | 脂質ナノ粒子 | 米2018 欧2018 日2019 |
遺伝性ATTRアミロイドーシス | 静脈内 |
Waylivra | volanesorsen | アンチセンス | Naked | 欧2019 | 家族性高カイロミクロン血症 | 皮下 |
Givlaari | ギボシラン | siRNA | GalNAc-conjugate | 米2019 欧2020 日2021 |
急性ポルフィリン症 | 皮下 |
Vyondys 53 | ゴロディルセン | アンチセンス | Naked | 米2019 | ディシェンヌ型筋ジストロフィー | 静脈内 |
Viltepso | ビルトラルセン | アンチセンス | Naked | 米2020 日2020 |
ディシェンヌ型筋ジストロフィー | 静脈内 |
Oxlumo | ルマシラン | siRNA | GalNAc-conjugate | 米2020 欧2020 |
原発性高シュウ酸尿症I型 | 皮下 |
Leqvio | インクリシラン | siRNA | GalNAc-conjugate | 米2020 欧2021 |
高コレステロール血症混合型脂質異常症 | 皮下 |
Amondys 45 | カシメルセン | アンチセンス | Naked | 米2021 | ディシェンヌ型筋ジストロフィー | 静脈内 |
Amvuttra | ブトリシラン | siRNA | GalNAc-conjugate | 米2022 | 遺伝性ATTRアミロイドーシス | 皮下 |
Qalsody | tofetsen | アンチセンス | Naked | 米2023 欧2024 |
筋委縮性側索硬化症 | 骨髄内 |
Izeray | avacincaptadpegol | アプタマー | PEG-conjugate | 米2023 | 地図状萎縮を伴う彼黄斑変性 | 硝子体内 |
Rifloza | nedosiran | siRNA | GalNAc-conjugate | 米2023 | 原発性高シュウ酸尿症I型 | 皮下 |
Wainua | eplontersen | アンチセンス | GalNAc-conjugate | 米2023 | 遺伝性ATTRアミロイドーシス | 皮下 |
Rytelo | imeteistat | アンチセンス | GalNAc-conjugate | 米2023 | 輸血性依存貧血伴う骨髄異形症候群 | 静脈内 |
国立医薬品食品衛生研究所のホームページからの抜粋